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レディスクリニック・セントセシリア院長のBLOGです。


by cecilia1011
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あるリコーダー奏者の死

今年の6月3日、女流リコーダー奏者の篠原理華さんが亡くなった。34才という若さであった。死因は胃平滑筋肉腫。友人の外科医に聞いてみたのだが滅多にお目にかからない腫瘍だという。
悲報を聞いて私は本当にさみしい気持ちになった。彼女とは1度しか会ったことがないのだが何か大切な仲間を失ったような気がしたのだ。

彼女と会ったのはもう10年近く前のことになる。日本を代表するリコーダーの名手である花岡和生さんと彼女とのジョイントリサイタルが、青森市の国際交流ハウスで行われたのだ。「ヴォイス・フルート」という低音のリコーダー2本のみのコンサート。森を背景にした無垢の木の空間で、控えめになりひびくフランス・バロックは、あまりに美しく、神々しさすら感じるほどであった。モーツァルトの愉悦感とはまた違って、さらにもう一歩繊細で純粋な音楽。「マツケンサンバ」などとは全く対極にある音楽だ。

私はこのコンサートの企画にからんでいたこともあり、コンサート終了後、お二人と食事をさせていただいた。篠原さんは髪の長いシャンプーのCMに出てくるようなお嬢さんであった。決して余計なことを言わない物静かな方であったが、底光りするような音楽への熱意を感じた。

実はその時に発売されたCD「ミシェル・ブラヴェ小品集」は、私のクリニック開院当初から待合室のBGMに使用させていただいている。毎日彼女が私のクリニックに顔を出してくれているようだ。これらの宝石のような作品を聴いていてつくづく思うのは、本当に質の高いもの、美しいものを残したい、という貴重な感性である。音楽に悪しきコマーシャリズムが蔓延している中で、それに背を向けてがんばっている彼女は本当に同志のように思えた。

音楽の世界と同じように私たちの世界でも、質の高い医療を行ったからといって、必ずしもすぐに多くの人から評価されるわけではない。私もいわゆる「商売」は苦手な方だ。でも心に残る医療をめざして誠実に努力すれば、数は多くなくてもわかってくれる人たちはきっといる。

 待合室から聞こえる彼女の笛の音は、そう私にエールを送ってくれるのである。



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by cecilia1011 | 2005-09-01 15:53 | あるリコーダー奏者の死